防災製品の開発者という仕事 — メーカーの現場から
- 防災製品開発は備蓄品・避難用品・防災システム機器の3領域に分かれ、それぞれ求められる技術背景が異なる。
- 防災製品市場は自治体・企業のBCP対応強化を背景に拡大傾向にあり、機械・electronics系の技術者採用が広がっている。
- 異業種の製品開発経験(食品・電機・繊維等)は防災製品開発への転職で高く評価される傾向にある。
「防災グッズって、もう出尽くしてるんじゃないですか」
面談でこう聞かれることがありますが、僕の実感はまったく逆です。防災製品の開発現場では、まだ改善の余地が大きく残っています。今回は、防災製品開発という職域について書きます。
率直に言うと、防災製品というと「非常食」や「防災リュック」のイメージが強いかもしれません。ですが、実際の開発現場はもっと幅広く、機械・電子工学系の技術者も多く関わっています。
0. 前提 — 防災製品開発の3領域
防災製品開発は、大きく①備蓄品(非常食・保存水など)、②避難用品(簡易トイレ・防災リュック・簡易テントなど)、③防災システム機器(避難情報を伝達する防災行政無線機器・センサー類など)の3領域に分かれます。それぞれ食品工学、繊維・機械工学、電子工学という異なる技術背景が求められる点が特徴です。
誤解がないように申し上げると、この3領域は完全に独立しているわけではなく、企業によっては複数領域を横断して手掛けているケースもあります。
1. なぜ需要が拡大しているのか
大規模自然災害の頻発を受け、自治体・企業のBCP対応強化が進んでおり、これに伴い備蓄品・避難用品の需要が高まっています。加えて、防災システム機器についても、避難情報伝達の高度化という政策的な後押しがあります。この2つの要因が重なり、防災製品市場全体が拡大傾向にあるというのが業界の見立てです。
2. 備蓄品開発の仕事
備蓄品開発は、長期保存性・栄養バランス・調理不要での食べやすさを両立させる、食品工学的な難易度の高い仕事です。食品メーカーでの製品開発経験を持つ方は、この領域で高く評価される傾向にあります。味や食感の改善は地味な積み重ねですが、実際に被災者に届いた際の反応が開発のモチベーションになる、という声を現場の方からよく聞きます。
3. 避難用品開発の仕事
避難用品は、コンパクトさ・耐久性・使いやすさのバランスが求められる領域です。繊維メーカー・機械メーカーでの製品開発経験がある方は、素材選定や構造設計の知見を活かせます。近年は女性・高齢者・障がいのある方など、使う人の多様性を踏まえたユニバーサルデザインの視点も重視されるようになっています。
4. 防災システム機器開発の仕事
防災行政無線機器やセンサー類の開発は、電子工学・組込みソフトウェアの知識が求められる領域です。自治体防災DXと接点が深く、自治体側の要件を理解した上での機器設計が必要になります。電機メーカーでの機器設計経験、組込み系のソフトウェア開発経験がある方は、この領域への転職で評価されやすい傾向にあります。
5. 年収の目安
面談で聞く目安値として、備蓄品・避難用品の開発職で年収400万円台〜500万円台、防災システム機器の電子工学系技術者で年収500万円台〜700万円台という提示が多い印象です。あくまで独自ガイドの目安値であり、統計値ではありません。
6. 求められる資質
この仕事に向いているのは、「実際に使われる場面」を具体的に想像できる人です。災害時の混乱した状況、体力の落ちた高齢者、小さな子どもを抱えた家庭——こうした具体的な使用シーンを想像しながら製品を設計できる人が、良い防災製品を生み出しています。逆に、技術的な性能ばかりに目が行き、使用シーンへの想像力が及ばない方には、この分野特有の視点の切り替えが必要になります。
8. 海外製品との競争という視点
防災製品市場には、海外製の高機能な製品も参入しており、国内メーカーは品質・きめ細やかさで差別化を図る場面が増えています。この競争環境を理解しておくと、面接で「なぜこの会社の製品が選ばれるのか」という質問に、説得力を持って答えられます。
加えて、環境負荷への配慮(長期保存できる備蓄品の廃棄ロス削減等)も、近年の製品開発で重視されるテーマの一つです。サステナビリティの視点を持つ技術者は、今後さらに評価が高まっていくと僕は見ています。
9. 開発現場の一日
防災製品開発の一日は、試作品のテスト、社内での品質評価会議、時にはユーザーテストへの参加などで構成されます。実際に使う人の反応を直接見られる機会がある職場は、開発のモチベーションを保ちやすいという声を、現場の方からよく聞きます。
10. 展示会・見本市を活用した情報収集
防災製品業界は、防災関連の展示会・見本市が定期的に開催されており、転職活動の一環として実際に足を運んでみることをお勧めします。企業の担当者と直接話せる機会があり、求人票だけでは分からない現場の雰囲気を掴むことができます。
11. まとめとして、もう一度伝えたいこと
防災製品はまだ改善の余地が大きい分野です。異業種での製品開発経験を、防災という文脈でどう活かせるか、一度整理してみてください。
12. 面談で実際に聞いた、印象的な転職エピソード
ある方は、大手食品メーカーで即席食品の開発を10年経験した後、防災食品を専門に手掛ける中堅メーカーへ転職しました。長期保存性と味の両立という技術的な難しさは、通常の食品開発よりも高度な部分がありますが、「制約の中でどう美味しさを追求するか」という開発者としての本質的な面白さは変わらないと、本人は語っていました。
別の例では、アウトドア用品メーカーで防水・軽量素材の設計を担当していた方が、防災リュックの開発職へ転職したケースもあります。アウトドア用品と防災用品は、「過酷な環境でも機能する」という要件が共通しており、技術の転用がしやすかったとのことです。
13. 開発現場で求められる「使用者視点」の鍛え方
使用者視点を鍛えるには、実際に自分で防災製品を使ってみる、避難訓練に参加してみるといった、地道な体験の積み重ねが有効です。技術力だけでなく、この体験から得た気づきを製品開発に反映できる人材が、良い防災製品を生み出しています。
14. サステナビリティと防災製品の両立
近年、防災製品の開発現場では、長期保存を前提とする製品特性と、環境負荷削減という時代の要請をどう両立させるかが新しい論点になっています。廃棄ロスを減らすパッケージ設計、リサイクル素材の活用など、従来の防災製品開発にはなかった視点が求められる場面が増えています。この変化に対応できる技術者は、今後さらに市場価値を高めていくとみられます。
この論点は、環境系のバックグラウンドを持つ技術者にとって、防災製品業界への新しい入口にもなり得ます。異業種の知見を持ち込むことで、これまでの防災製品にはなかった発想が生まれる可能性を、僕は感じています。
7. 実務パート — 今日からできる準備3つ
防災製品開発に興味を持った方に、今日からできる準備を3つお伝えします。①自分の業界の技術を防災に応用できないか考える(所要30分)。食品・繊維・電機、どの業界出身でも接続点は見つかります。②市販の防災製品を実際に使ってみる(所要1時間)。使用者視点での気づきをメモしておくと、面接での説得力が増します。③防災製品メーカーの求人を5件読む(所要30分)。求められる技術背景の傾向を掴みます。
(結論)防災製品は、まだ「発展途中」の分野
まとめます。①防災製品開発は備蓄品・避難用品・防災システム機器の3領域に分かれ、それぞれ異なる技術背景が求められる。②BCP対応強化や避難情報伝達の高度化を背景に、市場は拡大傾向にある。③異業種の製品開発経験は転職で高く評価され、「実際に使われる場面」への想像力が良い製品を生む鍵になる。
皆さんいかがでしたでしょうか。まずは15問の適性診断で、自分がどの職域に向いているかを確かめてみてください。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 防災製品の開発とは具体的に何を作る仕事か
非常食・保存水などの備蓄品、簡易トイレ・防災リュックなどの避難用品、そして避難情報を伝達する防災システム機器という、大きく3つの領域があります。それぞれ食品工学・機械工学・電子工学など異なる技術背景が求められます。
Q. 異業種からの転職は評価されるのか
食品メーカーでの製品開発経験、電機メーカーでの機器設計経験など、異業種での実務経験は防災製品開発への転職で高く評価される傾向にあります。防災という文脈への理解を示せれば、技術の転用として説得力を持ちます。
Q. この分野の市場は今後も拡大するのか
自治体・企業のBCP対応強化や、大規模災害後の備蓄需要の高まりを背景に、防災製品市場は拡大傾向にあるとみられています。ただし個別企業の業績は市況や競合状況により変動するため、応募先ごとの確認は必要です。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。